女子中高生を震撼させている予防接種の実態に迫る 子宮頸がんワクチン問題を追う

 

第一回 「お母さんがいなくなった」

世界初のがん予防ワクチンとは

2014年6月11日


水面下で激しいせめぎ合いが続いている。たとえば自民党の古川俊治参議院議員(1963~)は、筆者の取材に応えて、次のように語った。

「なにしろ国際標準のワクチンですからね。子宮頸がんは数少ない予防可能ながんなので、このワクチンの接種を推奨することは、先進国の医療として最低限の条件、国民に対する義務だろうと、私は考えております。

副作用(副反応)だと言われているものは、科学的に見ると、そうは考えがたいという点がございまして。他の要因あるいは要因なしでも発生してくるような症状が、ワクチンと関連づけて提示されているようなところが多分にあると思います。非科学的な配慮でがんの予防を怠ってはいけません。

もちろんワクチンの接種を強制はできないわけですから、国としてはやはり、(副作用と言われる症状との)因果関係はないということを、しっかり国民の皆さんに情報を公開して、その上で受ける方々が最終的にご判断されるということだと思います。接種を推奨することのメリットとデメリットを比べて、国は科学的に妥当だと考えるから勧奨するのだという点をしっかり(アピール)すればよいのです」

弁護士資格を併せ持つ外科医でもある。古川氏の主張はそれだけに自信満々だ。

しかし一方、同じ自民党でも脇雅史参議院議員(1945~)の考え方はだいぶ違う。建設省(現・国土交通省)の元技官。彼の話はこうである。

「このワクチンの効果はある種、限定的ではあるのですよね。そしてまた、全員に打たなくてはならないものなのか。予防接種というのは、残念ながら時に被害に遭われる方も出るけれども、トータルでは明らかにプラスだという場合に、まあ仕方がないかということでやるものだ。でも私は、この子宮頸がんという病気は、少し性格が違うように思うのです。空気感染じゃないんだからね。

実際に重篤な副反応が出ている人がかなりおられる。ワクチン由来かどうかはまだ明らかではないけれど、接種した人に症状が現れていることは確かなんです。それを、因果関係がわからないからいいんだ、気のせいだなんていう言い方はないだろうと、私、一度、厚生労働省を叱ったんですよ。

水俣病のときに、チッソはあの廃液を、原因はわからないんだからと言って、垂れ流し続けました。厚労省というのは、そういうのを監督するのが仕事なのに、あまりに無責任ではないか、お前らはチッソかと言ったんですけどね」

―― それは凄い叱り方ですね。

「極端なことを言えば、ね。だからそうではないんだということを、きちんと説明する義務が(国には)あるんです」

―― チッソかとまで言われて、厚労省のお役人たちは、なんと?

「黙ってましたけど」(苦笑)

厚生労働省は2013年6月、いわゆる子宮頸がん予防ワクチン―― 正確にはHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン―― の積極的な接種勧奨を差し控えることを決め、全国の自治体に通知した。予防接種法の改正によって2カ月前の4月、小学6年~高校1年の女子は原則無料の定期接種となった直後の措置だった。

異例に過ぎる事態が招かれたのは他でもない。このワクチンは定期接種化以前の13年3月末までに約328万人が接種したと推計されるが、全身の激しい痛みや痺れ、意識障害、記憶障害、運動障害、てんかんのような発作等の症状が現れたケースが続出。医療機関や製薬会社経由で厚労省に届いた報告だけで1968件、重篤な症例に限っても360件前後を数えたといい、「接種部位以外の体の広い範囲で持続する疼痛の副反応症例等について十分に情報提供できない状況」(厚労省HPより)に陥ったためである。問題提起や救済を求めて「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が結成され、マスコミに大きく報じられてもいた。ただし厚労省はワクチンの有効性に問題はなく、定期接種を中止しなければならないほどのリスクはないとして、適切な情報提供ができる体制が整いしだい、接種勧奨を再開したい意向である。

厚労省の方針を裏づけているのは、同省が設置している審議会の専門委員会だ。厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会および薬事・食品衛生審議会の医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議。だが、この4月、これとは別に独立した、HPVワクチンに関する副反応原因究明チームが発足した。

その中心人物である西岡久寿樹東京医科大学医学総合研究所所長(1943~)に会って話を聞いた。三重県立大学医学部卒。東京女子医科大学リウマチ・痛風センター内科教授、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター長などを経て現職にある彼は、厚生科学審議会の別の部会の専門委員や研究班長を歴任するなど、厚生行政とは良好な関係を維持してきた人物だ。原因究明チームは西岡氏が坂口力元厚労相とともに代表理事を務める一般社団法人難病治療研究振興財団に置かれている。

有力な専門家が多く集まっているが、現時点ではメンバーの顔ぶれを審(つまびら)かにできない。

―― HPVワクチンについての、先生方の問題意識を教えてください。

「このワクチンの問題について、私は少し前まで、『何か騒いでいるなぁ』程度の認識しかありませんでした。だって産婦人科の領域だと思うでしょ。お恥ずかしい話ですが、『お年寄りの人にも打つのかなあ』なんて思っていたぐらいなんです」

―― 子宮頸がんで亡くなるのは、たいがいお年寄りですものね。

「そう。ところが去年あたりから、私のところにも子どもの線維筋痛症に酷似した症状の患者が来るようになったんですよ。普通は30~40代の、大人の女性が圧倒的に多いのですが」

線維筋痛症とは原因不明の痛みや不眠、うつ状態などの精神・神経症状を主症状とする疾患だ。精神的な問題だと決めつけられていた時代が長く、近年になってようやく疾患の解明が進み、治療体制が整備され始めた。この疾患に苦しんでいる人は日本全国で推計約200万人、うち8割を女性が占めているという。

「抗てんかん剤が効いた症例が少なくないし、脳の特定の部位の痛みの関連物質を標的にした薬品で痛みを抑えることもできるようになってきた。中枢性感作といって、痛みに対して脳が敏感になっていることが明らかになっている状態。その基礎にはすなわち炎症という病態があるのではないか、というふうに」

―― まだ年端もいかない少女たちが……。

「で、当然、何がキッカケだったのかと尋ねますね。すると、ものすごく痛い注射をされた、子宮頸がんの予防接種だったと。そんなケースが2件続いて、3人目には私のほうから、ひょっとして最近ワクチン受けた? と聞いたら、ハイ、子宮頸がんワクチンを受けましたって。

以来、私が直接診た子だけで、ざっと20人近くにのぼります。ちょっと相談を受けたとか、そんなケースまで数えたら、50人ははるかに超えてますね。もう長いこと診てきた子が新聞を読んで、実は私も子宮頸がんワクチンの接種後に……なんて言い出したこともある。ああ、やっぱりなって。さらに追跡していくと、線維筋痛症にはみられない高次機能障害があり、認知症的な症状まで出てしまっている子たちもいるんです。異常だとは思いませんか」

―― ワクチンとの因果関係は明白だ、と。

「単純なことです。私はいろいろな難病の解明に取り組んできましたが、普通は原因を探し出すのが大変なんです。それには、まずは症状の共通性を考えるところから攻めていく。スモンでも水俣病でも薬害エイズでも、最初は何もわからなかったはずですよ。疫学的なデータを集めていくうちに、特定の地域、たとえばどうも水銀が流れる川の下流に水俣病が多発しているようだなどというように実態が、少しずつわかっていった。

今回はHPVワクチンを打ったという共通項がはっきりしているわけですからね。だけど、じゃあ全員に症状が現れるのかといえば、それは違う。我々の実態解明班のチームでは、接種した子たちのゲノムを解析し、何か起こった子と何も起こらなかった子の遺伝情報を比較対照してみるつもりです」

―― 今はまだ平気でも、先々に何か起こるという場合もあり得ますか。

「可能性はあります。だからこそ通常、先端的な薬剤を売り出す場合は、PMS(Post Marketing Surveillance = 製造後調査)というのを製薬会社はしなければならないことになっています。私たちが1990年代後半、関節リウマチに『抗サイトカイン療法』と呼ばれる治療法を日本人に初めて導入したときも、製薬会社に投与した患者様全員のフォローアップを命じました。ジャッジメントに当たる委員会はもちろん、製薬会社ではなく日本リウマチ学会におき、そこには厚労省の医薬安全課のメンバーにも入っていただきました。

HPVワクチンはどうですか。世界初のがん予防ワクチンだと言いながら、接種した子の長期的追跡なんてほとんどやってないに等しい。何人かの知り合いの国会議員に聞いてみたら、みんな例の検討部会に任せているという。肝心の免疫のエキスパートがほとんど入ってないような会合にね。無茶苦茶です」

―― そこで、厚労省の合同会議に対する西岡先生たちの原因究明チームが設置されたのですね。しかも元厚労相がトップの財団に。

「難病治療研究振興財団には厚労省のOBにも理事として運営に関わってもらっています。だけど厚労省に近い遠いなんて関係ない。ダメなものはダメで、いいものはいいんです。私は医者として当然の良心に基づいて行動していますから。まあ、多くの現場の医師や専門家は心の中ではいろんな思いがあっても、お上には口が出せないという慣習はなかなか消えない。私の大先輩の黒川清元学術会議会長は『異論の出ない社会システムは崩壊する』と私に異論の勧めを説いています」

西岡氏が力を込めた。

「今後はアメリカやスイス、カナダ、フランス、ロシアなどのドクターとグローバルなネットワークを築いて、連携していきます。どの国にも深い問題意識を持って、きちんとやっている仲間が大勢いますからね。実際、フランスではこのワクチンを全面的に見直し、原因究明に乗り出すことを国会で決定しています。また、私が近くロシアで講演することになったHPVワクチン副反応についての疾患概念については、ロシア政府も大きな問題意識を持っています」

以上はHPVワクチンをめぐる最新の動きだ。HPVワクチン副反応原因究明チームに関する西岡氏の決意表明を、本稿が初めて報じた。接種後の重篤な症状に苦しむ少女やその母親たちと、厚生労働省を中心とする接種推進派の齟齬(そご)ばかりが目立っていた状況が、ここへきて大きく変化しつつある。

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プロフィール

斎藤貴男(さいとうたかお)
ジャーナリスト。1958年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学修士(国際学MA)。新聞記者、週刊誌記者などを経てフリーに。著書は『機会不平等』(文春文庫)、『強いられる死 自殺者三万人超の実相』(河出文庫)、『いま、立ち上がる―大転換に向かう“弱肉強食”時代』(筑摩書房)、『経済学は人間を幸せにできるのか』(平凡社)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『民意のつくられかた』(岩波書店)、『戦争のできる国へ 安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)で第3回「いける本」大賞受賞。