女子中高生を震撼させている予防接種の実態に迫る 子宮頸がんワクチン問題を追う

 

第一回 「お母さんがいなくなった」

「子宮頸がんワクチン」と呼ぶ欺瞞

2014年6月11日


「HPVワクチン」と言ったり、「子宮頸がん(予防)ワクチン」と言ったり。ややこしくて筆者自身も混乱してくるが、これは言葉の遊びではない。事の本質にも通じるポイントだ。

他ならぬ予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の委員が昨年11月に行った講演「ワクチンの疑問に答えます~予防接種はなぜ必要?」での発言が参考になるのではないか。講師は多屋馨子国立感染症研究所感染症疫学センター第三室長。朝日新聞社の主催、一般財団法人阪大微生物研究会の共催(厚生労働省など後援)による「ワクチンの学校2013」の場で、彼女は、

「ワクチンを打てば、子宮頸がんの70%は予防できます」

と語っていた。では残る30%は予防できないのが問題なのかというと、それほど簡単ではないから厄介だ。

正面のスクリーンにはWHO(世界保健機関)のデータによる「地域別にみた、子宮頸がんに占めるヒトパピローマウイルスの主な遺伝子型別割合」のグラフ群が。多屋氏によれば、アジアの子宮頸がん患者から見つかるHPVは16型か18型が67%で、ワクチンはこれらのタイプのウイルスの感染を防ぐことができるけれども、それ以外の、たとえば31、33、35、45、52、58の各型などはカバーできない。だから「検診とのセットが重要」だと、配布された資料にあった。

「ワクチンの学校2013」資料より

「ワクチンの学校2013」資料より

多屋氏の示した数字(70%)は、アジアのデータ(67%)とやや異なる。これは四捨五入か、やはりスクリーンに現れた全大陸合計(16型か18型が70%)の平均値を述べたのか。ちなみに日本の子宮頸がん患者だけに絞ると、2つのタイプは約59%で6割にも満たないという調査もある(笹川寿之「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの現状と課題」『モダンメディア』55巻10号、2009年など参照)。

いずれにせよ子宮頸がんという病気を完全に予防できるワクチンは存在しない。「子宮頸がん予防ワクチン」のネーミングは行政発の官製で、正しくはあくまでも「HPVワクチン」だ。接種を推進する立場の人々は従来、どこか避けがちだった表現だが、この日の多屋氏はさりげなく使っていた。

MSD報道参考資料より。

MSD報道参考資料より

どういうことか。子宮がんには子宮の入り口(頸部)にできる「子宮頸がん」と、中のほうにできる「子宮体がん」があり、前者の原因はHPVだとされている。しかるにHPVは実にありふれたウイルスで、男女ともにそれぞれの皮膚や粘膜に持っているというのが定説。それが「性交によって膣の奥に押し込まれて子宮口に感染し、持続感染を起こすことで子宮頸がんの引き金になることがわかっている」(『現代用語の基礎知識』2014年版)。

もっともHPVには100種類以上のタイプがあり、発がん性を伴うのは既述の通り、ごく一部のタイプ―― 15種類ほど―― に限られる。WHOはその感染者を世界全体で約3億人、このうちCIN(子宮頸部上皮内腫瘍の分類で浸潤がんに至っていない状態)が1(軽度異形成)ないし2(中等度異形成)のレベルに移行する人が約3千万人と推計している。いずれもHPVが上皮細胞に入り込み、その形態をやや変化させた状態のことである。

続くCIN3(高度異形成、上皮内がん)が約1千万人、さらにはっきりした上皮内がんから浸潤がんへと進んでしまう人は約45万人。ということは、発がん性のHPVに感染しても、子宮頸がんを罹患する人はその0.15%でしかない。

要はHPVに感染しても大概は発症に至らない。子宮頸がんが「性感染症」と呼ばれにくい所以(ゆえん)だ。

軽視してよい病気だなどと言いたいのではもちろんない。米国などと比較して著しく低い子宮頸がん検診を大いに普及させる必要があるとは、筆者が取材した限り、誰も否定しなかった。ただ、HPVワクチンの有効性に関する特性は早くから知られていたのである。

『必要ですか? 子宮頸がんワクチン』(日本消費者連盟)

『必要ですか?
子宮頸がんワクチン』
(日本消費者連盟)

HPVワクチンの製造・販売元は「メガファーマ」と呼ばれる巨大な多国籍製薬資本である。2006年に製品化され、09年4月にはWHOが各国政府に推奨。これを受けて日本政府は同年10月、英国に本社を置くグラクソ・スミスクライン(略称GSK)の「サーバリックス」を承認した。翌々11年7月には米国メルク社の日本法人MSDの「ガーダシル」が承認されているのだが、この間の10年11月には日本消費者連盟が『必要ですか? 子宮頸がんワクチン』と題するブックレットを発行していたし、同時期にはVPD(Vaccine Preventable Diseases = ワクチンで予防できるすべての病気)に対する予防接種制度の整備を求める医療関係者の組織、予防接種推進専門協議会までもが、「HPVワクチンよりも優先順位の高いワクチンが他にある」旨を主張する局面もあった。

副反応の危険性の以前に、接種することの意義自体を疑われていた。何よりも、接種される少女たちよりも若く幼く、実績のない新型ワクチンである以上、中長期的な有効性を見通すことのできる人間など、世界中のどこにも存在しない事実も、改めて指摘しておく必要があるのではないか。

それでも厚労省は、HPVワクチン接種の制度化を急いだ。2009年末、すなわちGSKがサーバリックスの販売を開始して間もない段階から公費助成に踏み切る自治体が次々に名乗りを上げ、10年度の補正予算で国が助成費の半額負担を決めるや、一気に拡大。この過程で副反応を訴える少女たちが続出し、にもかかわらず定期接種のラインナップに加えられた。11年9月には接種の2日後に死亡した女子中学生の事例が報告されたが、心臓の持病が悪化して「致死性不整脈」に至ったと推定されただけで、何も顧みられなかった。ちなみにHPVワクチンは肩に近い腕の筋肉に注射する。1、2回の接種では十分な抗体ができないといい、半年の間に3回の接種が必要だとされている。

HPVワクチン接種の勧奨を差し控えざるを得なくなった厚労省は昨年9月、東京大学病院や大阪大学病院、札幌医科大学病院、愛知医科大学病院など原因不明の痛みなどに対する治療体制の整った全国11病院を発表。接種から2~4週間が過ぎても症状の続いている患者に受診を呼びかけ、あわせてデータの収集・分析に努めたという。

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プロフィール

斎藤貴男(さいとうたかお)
ジャーナリスト。1958年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学修士(国際学MA)。新聞記者、週刊誌記者などを経てフリーに。著書は『機会不平等』(文春文庫)、『強いられる死 自殺者三万人超の実相』(河出文庫)、『いま、立ち上がる―大転換に向かう“弱肉強食”時代』(筑摩書房)、『経済学は人間を幸せにできるのか』(平凡社)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『民意のつくられかた』(岩波書店)、『戦争のできる国へ 安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)で第3回「いける本」大賞受賞。