女子中高生を震撼させている予防接種の実態に迫る 子宮頸がんワクチン問題を追う

 

第一回 「お母さんがいなくなった」

「気のせいだ」と言い放つ医者や行政

2014年6月11日


結果、彼らはしかし、接種後の少女たちが見舞われた諸症状を、接種時の痛みや緊張、恐怖、不安などが身体の不調として表れた「心身の反応」が慢性化したものと結論づけた。海外の状況をはじめサーバリックスとガーダシル(以下、合わせて「2剤」とする)、および他のワクチンとの比較、病態に関するさまざまな仮説などを検討したが、要は心理的な要因によるのであって、ワクチンの成分に由来する副反応ではないと断じたのである。

2014年1月の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議。その議事録から桃井眞理子座長(国際医療福祉大学副学長)のまとめを引く。

「海外においては同様の症例の報告はある。ただし、海外においては発症時期等々に統一性がなく、単一の疾患が起きているとはみなされていない。したがって、ワクチンの安全性の懸念とはとらえられていないというのが海外のデータからの評価でした。

2番目としては、2剤間の比較では、各種の疼痛の報告頻度はサーバリックスのほうが有意に高い。しかしながら、広範な疼痛又は運動障害については有意な差はない。

3番目は、広範な疼痛又は運動障害を来たした症例のうち、関節リウマチ、SLE(引用者注・全身性エリテマトーデス)、ギラン・バレー症候群、ADEM(同・急性散在性脳脊髄炎)の既知の免疫疾患と診断されている症例については、10万人年(年間10万人当たり)のデータからはバックグラウンドよりむしろ低いという数字で、ワクチンとの因果関係を示す集積性はなしと評価する。

次に、慢性疼痛あるいは運動障害のメカニズムとして、A、B、C、Dの神経疾患、中毒、免疫反応、心身の反応の4点(注)について御議論いただきました。1.神経疾患、2.中毒病態、3.免疫反応については、これまでの知見からは考えにくいという評価をいただきました。心身の反応について論点にまとめましたが、心身の反応が慢性の運動障害、疼痛について考えられるというまとめをいたしました」

(注)

  • 薬液により神経システムの異常が起こるという病態。
  • 薬液による細胞傷害、すなわち中毒性の病態が生じ、全身性の反応が引き起こされる病態。
  • 薬液に対して免疫のメカニズムが反応し、その結果として、全身性の反応が引き起こされる病態。
  • 針を刺した痛みや薬液による局所の腫れなどをきっかけとして、心身の反応が惹起され、慢性の症状が続く病態。

※「予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会審議会議事録」厚生労働省より

論点がたちどころに整理されていった。とはいえ議事録による限り、合同会議の場で詰めた議論が行われた形跡はない。あらかじめ用意された論理展開そのまま、といった印象だ。

「5番、子宮頸がん予防ワクチンは、局所の疼痛が2剤ともに非常に起きやすいワクチンである。疼痛に限らずですが、接種後の局所の疼痛等が心身の反応を惹起したきっかけになったことは否定できない。特に、直後に生じたものについては否定できない。しかし、接種後、接種部位の組織の反応が治癒していると考えられる、1カ月以上経過してから慢性の症状が発症している例は、接種との因果関係は考える根拠に乏しいというまとめをいたしました。

次に、心身の反応が慢性に経過する場合は、急性の疼痛を来した原因とは別の要因が関与しているという評価をいたしました。

次に、治療に関してですが、今までの診察された先生方の結果を見ますと、リハビリ等身体的なアプローチと心理的アプローチの双方が必要であって、双方を用いた集学的な治療によって軽快している例なども御紹介いただきましたので、そのような治療体系が必要であるということが今日御議論いただいたまとめになりますが、これで間違いないでしょうか。よろしいでしょうか」

数点の補足が加えられて、この日の会合は終わった。副反応検討部会と安全対策調査会の合同会議は翌2月にも開かれ、前回の結論を前提に、医師がHPVワクチンを接種する際に留意すべき点をまとめている。

1.子宮頸がん予防ワクチンは、接種部位に強い痛みが生じやすいワクチンであることや、有効性について、接種前に十分な説明を行うこと

2.接種後の強い痛みなどにより生活の質(QOL)が低下するような事態が生じた場合には、それ以降の接種の中止や延期を検討すること

3.過去の接種時に強い痛みなど苦痛を受けたことを自己申告してもらえるよう予診票を見直すこと

4.子どもたちが安心して接種を受けられるよう、かかりつけ医での接種を推奨すること

2月の会合には宮本信也筑波大学教授(発達行動小児科学)が参考人に招かれていた。「小児の心身症や小児神経などに大変造詣の深い」と紹介されて彼は、「解釈モデルの不一致」という概念を解説した。症状に関する患者側の受け止め方と、接種した側の理解の仕方のズレといった意味だ。ワクチンによる痛みが、諸症状のある種の誘因になり得るとして、宮本氏はこう述べたのである。

「今回のワクチンは筋注ですので、ワクチンの痛みはこの程度だろうと想定していたものから、かなりかけ離れた痛みを感じる。強い痛みやあるいは持続期間です。

そして、その背景にあるのが、ワクチンという外部から自分にされた行為によって生じた痛みであるという思いです。これらの状況は、当然痛みを感じている人に、不安や、これは何なんだろう、何が悪いんだろうという疑心暗鬼のような思いを起こさせてしまう可能性がある」

「不安や疑心暗鬼の状態は、痛みへの意識の固着を生じさせます。痛みを強く意識する状態です。その意識の固着は、痛みの不快感を増強させ、痛みに対する耐性、我慢するという我慢強さを弱めてします(ママ)。 (中略)
さらにそこに到底受け入れられない説明が加わることがあるわけです。それはもしかしたら、精神的なものも関係しているかもしれない。これは患者さん側にとっては、問題を自分たちに責任転嫁されたという思いを持たせてしまいかねない。私が申し上げていますのは、あくまでも1つの仮定、推測です」

「一方、特に年齢が低い子供たちの場合は、そこまで強い陰性感情は起こさないかもしれません。しかしながら、家族の中に、そのような強い不安や陰性感情が起こることがあります。あるいは場合によると、マスメディアの報道の内容もそれを助長することがあるかもしれません。このような中にいますと、特に年齢が低い子供は、そのような周囲の不安や陰性感情を自分自身のものとして取り込んでしまう。(中略)
陰性感情が何を起こすかというと、それまでは早く治らないか、何とか元通りにならないかと思っていた希望や願望が、予防接種のためにこうなったんだから、治してほしいという要求に変わってしまう。要求に変わってしまうと、この問題を自らが対峙し、自ら対処していくべき問題という、現実的な対応の姿勢が取りにくくなってしまいます。周りからやってくれという。

そして、適切にこういった状況を言語化できない。ないしはある程度言語化しても、これまでと同じような対応を繰り返されると、言語化以外の表出の手段をとられる可能性が出てきます。ここに機能性の身体症状が出現する意味が起こってくることになります」
「ちなみに、小児科領域では、バルネラブル・チャイルド・シンドロームという言葉があるんですが、子供はそんなに大したことないのに、親が非常に心配して、医療機関を頻回に受診する。何度大丈夫だと言っても、でもと言って来る。そのような方は、多くの場合、母親が多いんですが、母親自身ないしは母親の身近な人に大きな病気で、例えば子供さんが亡くなられたとか、そういう病の経験を持っておられる方が少なくないと言われています。このような母親は、子どものちょっとした変化に対する解釈モデルが、一般的な視点とかなり異なってきているわけです」

相当に強烈な印象を受ける議論ではある。事実、子宮頸がんワクチン接種後の健康被害を訴えたら、医師に「気のせい」だと言い放たれたという証言を筆者は幾人もの少女や母親たちから得ている。ただし、早合点は禁物だ。宮本氏のレクチャーではこんな質疑もなされていた。

―― この委員会でも心身的な反応であるとか、心の問題、心因性反応という言葉がときどき出てくるんですけれども、これは一般に気のせいだという捉え方がよくされるような気がするんですが、必ずしもこれは気のせいとか、そういうことではなくて、反応性としては、いわゆる病的な状態ではないかと思うんですけれども、そこら辺りはいかがでしょうか。

「まさしくその通りだと思います。今回の副反応で出ている症状で、それを説明する身体的な問題が見つからない場合、該当するものとして思い当たるのは、いわゆるコンバージョンで、転換性の障害、あるいは転換性の症状で説明するのが、最も妥当だろうと思います。ただし、これは古典的なヒステリーという意味ではありません。それで心因性という言葉を使わないで、機能性とお話ししたわけです」

ともあれ厚労省の方向性は、このような発想からも導かれていた。メガファーマの圧倒的なパワー、グローバリゼーションとともにある新自由主義のイデオロギー、およびアンチテーゼ、安倍晋三政権の下で絶対権力と化しつつ、それだけにかえって根幹部分の混乱をいや増す一方の自民党政治……。HPVワクチンとは、それらが渾然一体となったテーマであるに違いないことは、改めて指摘するまでもない。

厚労省があのまま一気呵成に接種勧奨再開へと踏み切れなかったのには、政権与党内部における情勢の変化もあった。冒頭で紹介した主張の応酬を想起されたい。次回以降で詳述しよう。それにしても西岡久寿樹医師を中心とする難病治療研究振興財団のグループと厚労省の合同会議との間に横たわる認識の差異を、どう表現したらよいのか。逆に宮本氏の言う「転換性障害(コンバージョン)の要素を追究していけば、両者は全面的な対立関係とばかりも言えなくなる可能性はないか。

確かなことがひとつだけある。何事もなければ青春を謳歌していたに違いない多くの少女たちが、HPVワクチンの接種をきっかけに、あるいはその成分のせいで、今もどこかで全身の痛みに苦しみ、将来への不安に苛まれ続けている現実だ。

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第一回:「お母さんがいなくなった」

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プロフィール

斎藤貴男(さいとうたかお)
ジャーナリスト。1958年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学修士(国際学MA)。新聞記者、週刊誌記者などを経てフリーに。著書は『機会不平等』(文春文庫)、『強いられる死 自殺者三万人超の実相』(河出文庫)、『いま、立ち上がる―大転換に向かう“弱肉強食”時代』(筑摩書房)、『経済学は人間を幸せにできるのか』(平凡社)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『民意のつくられかた』(岩波書店)、『戦争のできる国へ 安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)で第3回「いける本」大賞受賞。